スマートフォンの普及によって写真や動画を使ったコミュニケーションが身近になる一方で、デジタル性暴力の問題も深刻化しています。TikTokはこれまで「#大切なひとを守ろう」キャンペーンや、プラットフォームの安全について専門家の皆さまと議論するセーフティパートナーカウンシルなど、あらゆる機会を捉えてより安心安全なプラットフォームの実現のために取り組んでまいりました。
その一環としてTikTok Japanは2023年2月22日(水)、TikTokクリエイターの皆さま向けに「デジタル性暴力」をテーマにした講習会を開催しました。講習会では、性暴力の防止に取り組むNPO法人ぱっぷすの相談員・広報担当の内田絵梨氏が「デジタル性暴力の現状」や「性暴力を防ぐために」をテーマに、2時間にわたってレクチャーを実施。リアル、オンラインを合わせて11名のクリエーターが講習会に参加し、デジタル性暴力の現状について学び、被害をなくすためにできることについて活発に意見交換をしました。
TikTokを安全で楽しい場にするために
講演会冒頭では、TikTok Japan 公共政策本部 公共政策マネージャーの金子陽子が「デジタル性暴力について知っていただき、クリエーターの皆さまにも一緒に考えてもらいたいと考えてこの場を設けました」と今回の趣旨を説明。さらに「多くの方にデジタル性暴力とはどういうことか、それを防ぐにはどうしたらいいのかを、ぜひ皆さまからも発信していただきたい」と、大きな影響力を持つ人気クリエーターの皆さまがデジタル性暴力の問題解決に果たす役割に期待を寄せました。
続いてNPO法人ぱっぷすの広報で、相談員でもある内田氏が登壇しました。NPO法人ぱっぷすは「性的搾取に私たちの世代で終止符を打つ」をミッションとし、①支援が必要であるにもかかわらず届いていない方へのアプローチ(アウトリーチ)や②相談支援、③意に反して拡散された画像や動画の削除要請、④講演活動などの広報啓発、といった活動をしています。
盗撮を取り締まる法律の整備が進められている
「性暴力は被害者が被害を申告することが少ない上、取り締まりも難しいのが現実」と内田氏はいいます。「盗撮」を例に、事件化の難しさを次のように説明しました。
「2023年春の時点では、世の中に”盗撮罪”は存在しません。盗撮を取り締まるには、各都道府県が施行する『迷惑防止条例』しかないのです。条例なので地域によって罰則も違っており、例えば撮影目的で更衣室にカメラを設置する『盗撮未遂』は、地域によっては条例違反として取り締まれないこともあります」(内田氏)。
盗撮に限らず、事件化できないケースはほかにも多くあるという言葉に、参加したクリエーターの皆さんも驚きを隠せません。しかし最近になって、ようやく性犯罪関連の法律改正の動きも活発化。いびつな状況が少しずつ改善されようとしています。
デジタル性暴力について知ってほしい
内田氏は「デジタル性暴力」について、まずは「知ってもらうこと」が重要だと語ります。加害者側も被害者側も、自分の行為がデジタル性暴力に当たると認識していないケースが目立つためです。そもそも、なぜ性的な写真を送らせるのはダメなのか。なんとなく悪いことだと感じていても、これをきちんと言語化して答えられる人は多くないと内田氏はいいます。
内田氏はデジタル性暴力を理解する前提として、①自分の体をどうするかは自分で決めて良い、②自分と他者との境界線(バウンダリー)の存在、③対等な関係で結ばれる性的同意の大切さという3つの概念を挙げました。例えば金銭や契約などで縛られた関係は「対等な関係で結ばれている」とは言えず、自分の体のことを自分で決められないため性暴力に当たるといいます。
では、相手の同意が得られていれば性的な写真や動画は撮ってもいいのでしょうか?それの答えもNOです。なぜなら、写真や動画は「いつでもどこでも、本人の同意を得ずに見ることができる」からです。
「(写真や動画は)撮ったときに同意があったとしても、その後で本人の同意なく別の場所で見たり、他の人に見せたりできてしまいます。これもやはり性的同意が侵害されている状態、つまりデジタル性暴力そのものなのです」(内田氏)。
性的な写真や動画は、一度ネット上に拡散されてしまうと消すのが困難です。当事者は永遠に「誰かに自分の写真が見られているかもしれない」という恐怖にさいなまれます。その結果、誰かに知られてしまって学校や会社を辞めざるを得ない状況になってしまう、引っ越しを強いられるなど社会生活が成り立たなくなったり、結婚や出産、就職など人生のターニングポイントで前向きな選択ができなくなったりしてしまいます。
このようにデジタル性暴力の怖さは、「自分の人生が奪われてしまう」ことにあります。このため、内田氏は「性的な写真を撮る・持つ・見せる・見る」のすべてが「性暴力」であると説明します。
「グルーミング」は関係性を支配して性暴力加害を隠す
さらに内田氏は最近急増している手口として、子どもに対する「グルーミング」を挙げました。これは巧みなコミュニケーションによって子どもを信頼させ、それを利用して関係性をコントロール(支配)する行為です。まず一度「信頼できる大人」という立ち位置を確立してから、子どもに対して性的なお願いをすることで、子どもの側が「悪いのは自分の方だ」という罪悪感や「相談できる相手がいない」という孤立感を抱いてしまい、従わざるを得なくなってしまいます。
一見やさしそうな「頼れる大人」として近づき、信頼関係を築いて親しくなったところで裸の写真を送らせたりするのがグルーミングの典型例。実際に、こうして入手した写真や動画が拡散されてしまう例も後を断ちません。
驚くことに、これらの犯罪行為を行う加害者は「皆さんのすぐ隣にいるようなごく普通の人たちがほとんど」だと内田氏は指摘します。法整備の不備や、人に知られにくいというデジタル性暴力の特性が、加害者の「バレなきゃ大丈夫」という心理を引き起こし、性暴力加害への一線を簡単に超えさせてしまっている一因なのではないか、と内田氏は考えています。
「加害者を減らすことが、被害者を減らす最も効果的な方法」と内田氏。だからこそ「写真を送らないようにしましょう」「知らない人とのやり取りには気をつけましょう」などと被害者側に注意を促すような啓発をするのではなく、「これは犯罪です」と加害者を止めるようなメッセージがもっと必要だと内田氏は力を込めて語りました。
自分の権利を知ることでデジタル性暴力から身を守る
デジタル性暴力では、被害にあっても泣き寝入りするケースは珍しくありません。「人に言ったところでどうにもならない」という諦めの気持ちや「自分にも悪いところがあった」「自分が我慢すればいい」といった自責の念が、被害者に「何もしない」ことを選択させてしまうのです。「自分のせいで家族に迷惑がかかるのではないか」と被害を相談できずにいる子も多いといいます。
しかし、何もしないことは被害を深刻化させる「最もまずい選択」だと内田氏は語ります。被害の拡大を防ぐためになによりも大事なことは「自分の権利を主張する」こと。そして適切な対応をしていくためには、自分を守ってくれる法律があることを知り、自分の最大の味方となる証拠を保全すること、そして専門機関に相談することが大切です。
デジタル性暴力を減らすには、制度や仕組みも変えていかなくてはいけません。それには世の中に啓発していくことも必要ですが、そこでの「伝え方」もポイントです。「クリエーターの皆さんが今日の話をTikTokにアップしてくれることで、多くの人にデジタル性暴力の問題を知ってもらい、考えるきっかけになるはずです」(内田氏)
デジタル性暴力のない社会を目指して
講演会の最後には、クリエーターの皆さまから、内田氏への質問や感想の声が続々と上がりました。
「私のフォロワーの子どもたちからは、親に悩みを知られたくないという声が多く寄せられます。そういう子たちが性被害にあったときに、親に知られずに相談できるのでしょうか」(みいるかさん)という質問に、内田氏は「ぱっぷすでは、まず本人がどうしたいかを一番に聞きます」と回答。必ず本人の希望を聞いた上で、対応方針を決めていくと話しました。どうしても保護者の協力が必要な場合でも、相談員から親に伝えることを提案するなど、本人にとってベストな選択となるような対応を心がけているとのことでした。
また「学校ではデジタル性暴力について学んでいるのでしょうか」(momokyaraben🍑🍙キャラ弁料理家さん)という質問には、「今の学校現場では性行為について話すのもタブーな雰囲気。性暴力の話は生々しすぎて話せないというのが現実です。ただ、デジタル性暴力について学生が知識をつけることが大事だと講演を依頼してくださる学校もあります。そして2023年度から全国の学校で「子どもたちを性暴力の被害者、加害者、傍観者にしないための教育」として『生命(いのち)の安全教育』が始まります
多くのフォロワーを抱える人気クリエイターの皆さまは、それだけ大きな影響力を持ち、またフォロワーの方から相談されるケースもあります。TikTokでは、クリエイターの皆さまや専門家の方々と連携して、必要な知識を必要な方々に届けることでより安全なプラットフォームをつくっていきたいと考えています。そして引き続き、青少年の安全を推進するために、このような講習会や意見交換会を積極的に開催してまいります。
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