スマホデビューの低年齢化に伴い、子ども達が危険にさらされる機会が増えています。性被害に関しては、だまされたり、脅されたりして自分の裸体を撮影させられ、相手に送るように強制される「自画撮り被害」が最多となっています(出典:警察庁「なくそう子供の性被害 統計データ)。
TikTokは未成年のユーザーの方にも多くご利用いただいています。夏休み期間は、SNSの利用を通じて性犯罪や誹謗中傷、詐欺と知ったトラブルに巻き込まれやすいとされています。特に性被害である「自画撮り被害」からユーザーを守りたいと考えましたが、私たちがそのままメッセージを発信してもユーザーに受け止めてもらえないのではという不安がありました。
そこで、TikTokで活動を行っているクリエイターの方に、啓発動画を作成して発信してもらえないか、と協力を呼び掛けました。すると、扱いが難しい内容にも関わらず、フォロワーを守りたいとの思いを抱いたクリエイターの方々が立候補してくださいました。
「TikTok自画撮り被害防止啓発動画制作に向けたワークショップ」
今回、参加するクリエイターは5人。DANIEL/ダニエルさん、まみすけ。/愛夢弥現。さん、みりんさん、モフモフモーさん、ロイさん(あいうえお順)です。なぜこの企画への参加を決めたのか、皆さんに伺いました。
DANIEL/ダニエルさん「自画撮り被害についてニュースで取り上げているのを見たところ、色々な法律的なルールがあると知りました。その点についてみんなに伝えたいと思いました。」
まみすけ。/愛夢弥現。さん「学生時代に作文や絵画のコンクールに参加することが多かったんです。自画撮り被害が今問題になっていると知って、自分のリスナーが若い子が多いので少しでも力になれたらいいなと思って参加しました。」
みりんさん「今まで自分はやりたいことを発信していくことばかり考えていて、世の中のため、誰かのためになることをあまり考えていませんでした。でも今回、フォロワー数も増えて影響力も少しはある人間として役立つことができるのなら、と思ってチャレンジすることにしました。頑張ります。」
モフモフモーさん「最近、私たちの音源をいろんな方が使ってくれるようになり、ユーザーの動画を見に行くと、自分たちの発信にも責任を感じる様になりました。今回こういう機会をいただいて、自分たちが注意喚起できるようになったらいいなと思って参加しました。」
ロイさん「ロイをフォローしてくれている女子中高生とかは被害を受けやすい層なので、ロイの立場からメッセージを発信したら、被害を受ける人がちょっとでも減るんじゃないかなと思って、やりたいと思いました。」
NPO法人ぱっぷす様による「自画撮り被害防止啓発動画制作について」講演
自画撮り被害を防ぐための啓発動画の制作にあたって、自画撮り被害の実態と対策について、NPO法人「ぱっぷす(https://www.paps.jp/)」の相談支援員である内田絵梨さんにご講演をいただき、ワークショップを開催しました。NPO法人ぱっぷすは、リベンジポルノ・性的な盗撮・グラビアやヌード撮影などのデジタル性暴力、アダルトビデオ業界や性産業にかかわって困っている方の相談窓口です。
内田さんは、自画撮り被害の啓発に大切な3つの概念を話します。「からだの自己決定」「バウンダリー」「性的同意」です。
「からだの自己決定」とは、自分のからだのことは自分で決めていいということ。誰かに脱げと言われても受け入れなくてもいい、ここまではOKなどを決められる権利です。「バウンダリー」とは自分と他人の境界を指します。自分のからだについて、友達や彼氏、彼女、大人が決めるものではありません。自分だけが決める権利を持っています。
「性的同意」も大切なことです。自分の体は自分のものなので、他人が勝手に触ったりすることは性暴力になります。「さっきはOKだったけど今は嫌だ」と断ってもいいのです。
しかし、性的同意には、相手との関係性が重要になります。対等であれば性的同意を結ぶことができますが、お金や契約で結ばれてしまっている場合は自分の体のことを自分で決められない状況になってしまいます。
自画撮り被害など写真や動画におさめている場合、相手の手元に自分の裸の写真や動画がある状態です。すると、撮られた時や送った時は見られてもいいと思っていたとしても、その後相手はいつでも自分の体を見ることができるようになってしまいます。例えば、居酒屋でご飯を食べているとき、誰かとおしゃべりしているとき、映っている本人の許可なく裸の写真を見ることができます。拡散されてしまった場合も同じです。自分の体を見られてもいいのか等の決定権を他人に奪われてしまいます。
このように、映っている本人が見られてもいいと思っていない時でも本人の裸の写真や動画を見ることができるということは、つまり性的同意が侵害され、自分の体のことを自分で決められない状態です。これを「性暴力(デジタル性暴力)」といいます。
デジタル性暴力は被写体のコントロールの及ばない所で、被写体となった人の「からだの自己決定」「バウンダリー」「性的同意」などの権利を侵害した性暴力です。
裸の写真や動画を受け取ったり、撮影させた人だけでなく、見る人達もいます。これを「消費者」と呼ぶと内田さんは言います。
消費者は知り合い以外と考えてしまいますが、実際はクラスの誰かや、誰かのお父さん、職場の人などすごく身近にいます。
相談者のなかには「このことはもうなかったことにしよう。忘れて生きていくんだ。このことは誰にも言わない」と決意する方もいます。しかし自分の写真や動画が存在している限り、周りにバレるのではないかという不安や恐怖から、前向きな決断をしづらくなってしまいます。
内田さんは、ある相談者の言葉が忘れられないと言います。「ある相談者さんが、私は目立たないように生きてきたけどやっぱり不安なんですと言っていました。私は胸がきゅっと痛くなりました。就職や結婚などの転機のとき、過去を知られることを恐れて一歩踏み出せなくなってしまう。人生の選択の幅が大きく狭められてしまうのです。」
デジタル性暴力は、撮られた時だけではなく、繰り返しずっと続いていきます。時には、値段を付けられて売買されます。「いつどこで誰が私の写真を見ているか」、不安を抱えながら生きていくことになります。
内田さんは、性的な写真・動画を「とる」「もつ」「みせる」「みる」のすべてが性暴力だと説明します。
「とる」は、その写真を撮ること。「もつ」は、その写真を持ち続けること。「みせる」は、その写真を誰かに見せたりネットにアップすること。「みる」は、その写真を見ること。これらはすべて性暴力です。
自画撮りを送らせる「グルーミング」とは
そして内田さんは、自画撮り被害の手口として「グルーミング」について説明しました。
グルーミングとは、「手なずけ」という意味で、子どもに接近して信頼を得ることで、罪悪感や孤立感、羞恥心などを利用して関係性をコントロールすることです。
自画撮り被害の加害者は、特殊な人ではありません。どこにでもいる普通の人が写真を要求してきます。加害者にとって自画撮りを送らせるということは攻略ゲームと同じなのです。「性的な写真を送れ」と脅すわけではなく、「性的な写真を送ることは危ないことではないよ。みんなやってるよ」と子どもを手招きして送らせることがグルーミングです。
ぱっぷすはNHKと協力して、グルーミングの実態調査を約3か月に渡って行いました。「14歳の中学生3年生の女子で甘いものが好きな受験生」という架空のSNSアカウントを作成し、「友達が欲しいな」と投稿したところ、1分も経たないうちに10人近い人がメッセージを送ってきて、合計で約200人が近づいてきました。
始めは、「勉強の邪魔にならないかな」などと優しく接してきます。例えば、友達とケンカしたと話すと、「つらかったね」「何でも話を聞くからね」と周りの人よりもとても丁寧に接してくれます。被害者は、自分を大切にしてくれる人だと信じ込んでしまいます。
加害者は優しく近づいてきます
そしてある日、「勉強のストレスを和らげる方法を教えてあげる」と言ってきます。その方法とは、性的な行為です。
加害者は性的な話題に持ち込みます
加害者たちは、「自画撮りを送ってもバレなければ大丈夫」「まったく問題ないよ!大丈夫!!」「お互いによければ犯罪じゃないよ」と説得してきました。これは、加害者が「お菓子の家」を用意している状態だと内田さんは説きます。
加害者は「バレなければ大丈夫」と言い聞かせてきます
「お菓子の家」とは、「ヘンゼルとグレーテル」という絵本に出てくる家のことです。貧しい家庭で暮らしていたヘンゼルとグレーテルは、両親に森の中に捨てられてしまいます。さまよう二人は森の奥にお菓子で作られた家を見つけます。お菓子の家で甘いお菓子や食事を食べ、家にいたおばあさんに優しくしてもらいます。しかし、実はおばあさんは悪い魔女で、二人を食べようとします。
ヘンゼルとグレーテルは、自らお菓子の家に入りました。しかし、家に入った方が悪いのでしょうか。自画撮りの加害者は「子ども達がやりたくてやっている」ように見せます。子どもが送りたくて送ったことにして、罪を逃れようとするのです。
加害者が被害者に接近する目的としてもっとも多いのは、性的な話題をすることです。次は性的な通話、性的な画像を送らせることと続きます。ここまではオンラインで可能です。性行為に関しては、実際に会うことが前提となります。性加害を行う人は、このオンラインでできる範囲であれば捕まることはないと考えています。そして被害に合った子ども達は、「自分が我慢すればいい。相手の人が悪いのではない」と考えてしまいます。
オンラインで可能な範囲なら捕まらないと加害者は考えています
内田さんは、「絶対に伝えたい4つのこと」として、以下の項目を挙げます。
・あなたは悪くない。撮らせて送らせることは性暴力。
・相手との今までの会話をスクショ、画面録画すると最大の味方に!
・否定せずに話を聞いてあげてほしい。
・専門の機関に相談しよう
自画撮りを送らせることによって「児童買春・児童ポルノ禁止法」や「リベンジポルノ防止法」に違反している可能性があります。送った人に罪はなく、法律で守られています。
しかし、警察などに相談に行く際には、証拠が必要です。相手が否定しても証明できるように、相手との会話、特に相手に写真が送られた場面のスクショや画面録画を手元に残しましょう。
また、周りから相談を受けたら、「なぜ送ったの」などと否定せず、しっかり話を聞いてあげることが大切です。「自分(送った側)が悪いのではないと伝えていきたい」と内田さんは言います。
そして、専門機関への相談も大切です。相手との交渉や技術的な話において、自分たちで解決することは難しいです。内田さんが所属するぱっぷすは、24時間相談を受け付けており、匿名でもOKとのことです。寄付金で運営している団体なので、相談は無料です。
内田さんは「ある相談者は、私の被害は未来にあると話していました。過去の一件が現在ではなく、未来へと続いてしまいます。クリエイターの皆さんのお力を借りて、TikTokユーザーの未来を守ってあげてほしい」と語りました。
講演を聞いてクリエイターの方たちが感じたこと
内田さんの講演を聞いた後、クリエイターの皆さんから講演の感想と、啓発動画制作について伺いました。
ロイさん「すごく大事なことだと感じました。内容的に拒否反応が出そうだし、こうしたことに時間割きたくないと思ってしまうと思うので、うまく咀嚼して伝えられたらいいなと思いました。」
モフモフモ― みみさん「どうして自画撮りを送ってしまうのか疑問だったんですが、グルーミングされるとか、送らないと嫌われちゃうとか追い詰められるんだとわかりました。改めてすごく危ないと思いましたが、法律で守られているとわかって安心もしました。被害を増やさないように動画を作ります。」
モフモフモー ととさん「衝撃を受けました。人間の心の隙に付けこむようなことを若い世代の子がされているのかなと考えるとすごくしんどくなってしまいました。動画を作ることで、フォロワーのみんなを幸せにしたいです。」
みりんさん「自分は無知だったなと感じました。目を向けられていなかったなと。自分のフォロワーさんは10代の女の子が多いので、気を付けてもらえるように、よく考えて動画を作りたいと思います。」
まみすけ。/愛夢弥現。さん「内田さんから具体的な資料を拝見して、やっぱり気持ち悪いと感じました。若い人たちが被害に合っているけど言い出せない理由がわかりました。もし被害に合ってしまっても言い出せない環境や状況が問題だと思ったので、フォロワーが身近に感じてくれる動画を作れたらと思っています。」
DANIEL/ダニエルさん「加害者の悪意あるやり方を垣間見ることができました。本当に危ないことだし、あってはならないことだと改めて感じました。ファンの方たちに伝えて、少しでもこうした問題をなくせたらいいなと思います。」
内田さんから自画撮り被害の実態を聞くことで、クリエイターの方たちはどんな動画で伝えるべきか、どうしたら伝えられるのか、真剣に考えていました。その動画は、TikTokで8月以降公開される予定です。子どもたちが自画撮り被害について学ぶだけでなく、周囲の大人も実態を知り、子どもたちを守らなければなりません。TikTokは今後も啓発動画やワークショップを開催して、この問題に取り組んでいきたいと考えています。
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